古いだけでは値段はつかない。ただし例外がある
「実家の戸棚の奥から出てきた古い食器だから、それなりの値段になるはずだ」
遺品整理や実家の片付けで、多くの方がそう考えます。ですが、古いというだけで食器に値段がつくことはありません。
なぜ和食器の相場は下がったのか
古伊万里をはじめとする和食器が、今よりはるかに高く動いていた時期は確かにありました。1980年代の骨董ブーム期には投機的な買い手が入り、品目によっては現在の数倍で取引されていたものもあります。
理由は単純で、市場に出回った量が多すぎたことです。
1970年代以降、いわゆる骨董ブームの高まりとともに、車で地方を回る「買出し屋」と呼ばれる業者が農村の旧家を訪ね、土蔵に眠っていた古伊万里などの日常雑器を大量に買い集めました。このとき掘り起こされた品が、数十年かけて市場に流れ続けています。品目によっては、当時の数分の一の水準まで下がっているものも珍しくありません。供給が需要を大きく上回った状態が、今も続いているということです。
残念ながら値段がつきにくいもの
買取の現場において、以下のような品物は値段がつきにくい(あるいは無料引き取り・買取不可となる)傾向にあります。
- 昭和期以降に大量生産された和食器
- 未使用・箱付きであっても、引き出物や一般的な贈答品のセット
- ノベルティ、記念品、企業名・団体名の入った器
- 量産品特有の転写プリントで、作家名も産地の特定要素も見当たらないもの
それでも一般家庭から出てくる例外
ただし、すべてを処分してよいわけではありません。
流通量の多い量産品が値崩れを起こしている一方で、現在でも専門市場で評価される器があり、一般家庭に伝わる品のなかに含まれている場合もあります。見た目だけで処分対象と決めず、以下の「5つの分野」に当てはまるものがないかを確認してください。
処分前に確認したい「5つの例外」
中国陶磁器(古染付・呉須手など明末の民窯系)
現在、評価対象となる可能性が高い代表的な分野です。なかでも「古染付」は、中国の明時代末期(天啓年間頃)に景徳鎮の民窯で焼かれた染付磁器で、日本からの注文に応じて作られたと考えられています。
官窯の端正な作りとは対照的に、生地が分厚くゆがみがあり、呉須(青い顔料)の発色がやや黒ずんで沈んでいるのが特徴です。特に器の縁の釉薬がポロポロと剥がれる「虫喰い」は、本来は焼成上の不備とみなされる現象ですが、日本の茶人はこれを「景色」として積極的に評価しました。
実際に現場でも、「先月お預かりした鉢は縁に数箇所の虫喰いがあり、一見するとただの古い欠陥品に見えましたが、時代と伝来が良く数十万円の査定額となりました」というケースは珍しくありません(※状態・時代により変動します)。
- 縁の釉薬が剥がれている、少し歪んだ青白い器はありませんか。まず写真を1枚お送りください。
国産の極上品(初期伊万里・古九谷・鍋島・著名作家物)
17世紀初頭に作られた「初期伊万里」は、呉須がにじみ、生地が厚く、高台の削りが粗いものが多いのが特徴です。また、大胆な構図と力強い五彩(赤・緑・黄・紫・紺青)で彩られた「古九谷」様式の皿や、鍋島藩の御用窯で焼かれ将軍家や諸大名への献上・贈答にも用いられた「鍋島焼」などは、条件が揃えば専門市場で評価されます。
なお、古い伊万里や古染付は無銘(裏に印がない)であることが通例です。無銘だから価値がないとは限りません。箱に「伊万里」「九谷」とあっても近代の量産品であるケースも多いため、時代や制作背景を含めた確認が必要です。
- 古い木箱に入っている、裏側に印のない古い和食器があれば、そのままの状態で写真を見せてください。
オールドノリタケ・輸出金彩
明治から大正期に海外へ輸出された品が、後年に日本へ戻ってきたものは「里帰り品」と呼ばれることがあります。意匠、技法、状態、裏印、セットの揃いなどによって、コレクター需要が生じる場合があります。
判定の明確な手がかりとなるのが裏側のマーク(バックスタンプ)です。「Nippon」の文字が入った1921年以前のマークや、月桂樹の枝をあしらった「マルキ印」などがあれば、当時の輸出用であった可能性が高まります。
- 裏側にアルファベットの印があれば、その部分の接写と全体像だけ撮って送ってください。
西洋の名窯・ブランド食器・クリスタル
マイセン、ヘレンド、ロイヤル コペンハーゲン、オールドバカラなどの西洋ブランドです。
現行品は中古市場で流通量が多く、定価ほどの評価につながらない(買取額が伸びにくい)傾向にあります。一方、廃番シリーズ、希少な装飾、ハンドペイントの限定品、あるいはティーセットなどが良好な状態で揃っている場合は、評価が大きく変わる場合があります。
- ブランドの刻印があるセットの洋食器があれば、枚数と状態がわかるように並べて撮影してください。
李朝・高麗の陶磁器
日本の旧家や茶道具のなかには、高麗青磁や、李朝時代の白磁・染付など、朝鮮半島由来と伝わる陶磁器が残されていることがあります。白磁の色味が青みや灰色を帯び、轆轤目が残るものが多く見られます。
ただし、この分野は現代の写しや後年作が極めて多く混在しています。自己判断が難しく、慎重な確認が必要な分野です。
- 判断は不要です。古い木箱に入った朝鮮陶磁器や由来のわからない器・壺類があれば、写真だけお送りください。
まず確認したいセルフチェック
専門家に見せる前に残すべき情報の確認ポイントを解説します。蔵や納戸全体を探す必要はありません。まずは手元にある器と箱だけを確認してください。
裏を返して、印を見る
家庭にある食器で、まず確認しやすい箇所です。とくに近現代のブランド食器や作家物では、底面に裏印・銘・陶印が入っていることがあります。
- アルファベットの印: オールドノリタケを含む日本製輸出陶磁器や、西洋ブランド食器の可能性があります。「Nippon」と書かれた裏印は、とくに米国向け輸出陶磁器では、1891年から1921年頃の品を考える手がかりとして知られています。ただし、「Nippon」の表記だけで窯元、製造年、真贋を確定することはできません。印全体が読める写真を残してください。
- 交差した双剣のマーク: ドイツのマイセンで知られる商標です。ただし、双剣に似た印や模倣印も多いため、マークがあるだけでマイセン製とは判断できません。
- 手書きの漢字、落款、花押: 作家物の可能性があります。読めないままで構いません。そのまま接写を。
【印も文字もない場合】
古染付、初期伊万里、李朝陶磁器などには、裏印や作者銘がないものも多くあります。一方で、無銘の器には流通量の多い日常雑器や後年の写しも含まれるため、印がないこと自体は評価の根拠になりません。縁・高台・器形・箱などもあわせて確認してください。
箱と付属品を探す
箱や付属品は、器そのものの評価を補強する重要な手がかりです。とくに作家物や茶道具、中国陶磁器では、共箱、識箱、栞、伝来資料の有無が評価に影響する場合があります。
箱がある場合は、蓋表だけでなく、蓋裏・側面・箱底も確認してください。作者名、器名、花押、旧蔵者名、貼札などが残っていることがあります。
- 共箱(ともばこ): 作者本人、または作者側が作品に添えた箱です。作者名、作品名、花押などが書かれていることがあります。
- 極箱(きわめばこ): 鑑定者や権威者が、作品の作者・時代・名称などについて極めを書いた箱です。
箱を見せていただくと、旧蔵者や保管時期をたどる手がかりになるため、追加調査や実物確認の対象として扱われることがあります。ただし、箱と器が本来の組み合わせではない「合箱(あわせばこ)」もあるため、箱書きだけで真贋や時代を決めることはできません。
縁を見る(虫喰い)
器の口縁部に釉薬が抜け、素地が見える状態を「虫喰い」と呼ぶことがあります。古染付などに見られることのある特徴です。釉薬や胎土、焼成条件などが重なって生じる表情の一つです。
日本の茶の湯では、均一ではない焼き上がりや偶然生じた表情を「景色」として味わう考え方があり、虫喰いもその文脈で見どころとされる場合があります。
虫喰い状の表情は、後世の写しや模作にも見られます。写真だけで本歌・写しを見分けることは難しいため、気になる箇所は接写し、器全体・高台・箱の写真とあわせて確認してください。
高台(器の裏の輪状の台)を見る
- 砂高台: 中国陶磁器の一部では、高台に砂粒が付着していることがあります。焼成時に器が窯床や窯道具へ付着するのを防ぐために用いられた砂が残ったものと説明されます。古染付や明末の呉須手で見られることがありますが、砂高台だけで産地・年代・真贋は決まりません。
- 目跡(めあと): 器を重ねて焼く際に、器同士や窯道具が接したことで残る痕跡です。初期伊万里を含む古い磁器で見られることがあります。高台内側や見込みに残る場合がありますが、目跡だけで初期伊万里と判断することはできません。
- 櫛目高台(くしめこうだい): 鍋島焼の一部で見られる、高台外側の規則的な櫛目状の仕上げです。鍋島焼を検討する際の観察点の一つですが、櫛目の有無だけで鍋島焼や高額品とは判断できません。
- 朝鮮陶磁器の可能性: 李朝白磁や高麗青磁は、器形、胎土、釉薬、高台、使用痕、伝来などを総合して確認します。色調や高台の削りだけで判断することは難しいため、古い箱や伝来資料がある場合は、器と一緒に撮影してください。
査定前に避けたい4つの行動
経年変化や使用痕が残る器は、無理な清掃によって釉薬、上絵、金彩を傷めることがあります。写真を撮ってご相談いただく前に、以下の4つは、しないでください。
洗浄・漂白剤・研磨剤の使用
古美術品、古い絵付け磁器、金彩のある器、欠け・ニュウ・補修跡がある器は、査定前に洗浄しないでください。強い洗剤、漂白剤、研磨剤、金属たわしを使うと、金彩、上絵、釉薬、補修部分を傷めるおそれがあります。表面のほこりを落とす場合は、乾いた柔らかい布や筆で軽く払う程度にとどめ、汚れが気になる場合も洗浄前にご相談を。
市販の接着剤やパテによる自己補修
東洋陶磁器は、欠け(ホツ)やヒビ(ニュウ)があっても、作品によっては評価対象となる場合があります。市販の接着剤やパテによる補修は、変色、はみ出し、再修復の難しさにつながり、査定上のマイナス要因となることがあります。自己補修をせず、破損箇所が分かる写真も添えて相談してください。
箱や古い紙類を処分する
真っ黒に汚れた木箱や、破れかけた包み紙、読めない文字が書かれた札などは、その器の由来、購入経路、作者、伝来を確認する手がかりになることがあります。汚れていても、器と分けずにそのまま保管してください。移動する場合は、器と箱を混同しないよう写真を撮り、番号を付けるなどして記録を残すと安心です。
器同士を直接重ねる
古い器や薄手の磁器、すでに欠け・ニュウがある器は、わずかな衝撃でも損傷が広がることがあります。移動や保管の際は、器同士が直接触れないよう、薄葉紙、不織布、やわらかい布などを間に挟んでください。箱に入れる場合も、器が中で動かないように固定します。
処分前に、写真による一次確認をご利用ください
古い箱・栞・伝来資料が残っている器、意味の分からない裏印や陶印がある器、中国・朝鮮・輸出陶磁器の可能性が気になる器は、処分前に写真でご相談ください。
写真での確認は、査定対象となる可能性や実物確認の必要性を判断するための一次確認です。真贋、制作時期、修復歴、最終的な査定額は、実物確認後に変わる場合があります。
【ご用意いただきたい写真】
- 器全体が分かる写真
- 裏面・高台の写真
- 裏印・銘・落款の接写
- 欠け、ニュウ、補修箇所があればその部分
- 箱がある場合は、箱の蓋表・蓋裏・側面
- 複数客ある場合は、全体の数が分かる写真
査定で評価が分かれた5つの事例
以下の事例は、過去の実績に基づく参考価格です。同種の品でも、査定時点での市場動向、保存状態、付属品の有無によって価格は大きく変動します。
明末・景徳鎮民窯の古染付鉢
評価ポイント
縁に虫喰いが数箇所、口縁に小さなホツ(欠け)がありました。通常の食器であれば減額対象ですが、古染付ではこれが大きな減点になりません。呉須の発色もよく、作行きとしては素直な一枚でした。
決め手になったのは箱と資料です。古い木箱に収められており、蓋裏の墨書と、添えられていた古い和紙の記録から、いつ頃どの家にあったかまで辿ることができました。伝来を確認する補助資料としてプラスに評価しました。
江戸後期の鍋島焼(色鍋島)尺皿
評価ポイント
状態・付属品:完品。時代箱(後年の合箱)あり。
鍋島特有の木盃形で高台が高く、外側に規則正しい「櫛高台」が見られました。近現代の精巧な写しも多い分野ですが、時代・作行きともに問題がなく、この価格になりました。
オールドノリタケ ティーセット
評価ポイント
状態・付属品:カップ1客欠品(計4客)。一部に擦れあり。箱なし。
意匠がアール・デコ初期の傾向を示していたことから、1920年代の製作と判断しました。欠品はありますが、里帰り品として国内外に買い手がいるため、4客揃いとして値をつけました。
19世紀 マイセンのカップ&ソーサー
評価ポイント
状態・付属品:カップ縁にわずかな金彩の擦れ。箱なし。
底面の双剣マークを削るスクラッチが入っておらず、一級品と確認できました。現行の定番シリーズは買取額が伸びにくい傾向がありますが、こちらは19世紀(ボタン剣期)に作られたアンティークであり、細密なハンドペイントの絵付けが高く評価されました。
昭和期の贈答用・量産和食器 5客揃
評価ポイント※写真の段階でのご案内
状態・付属品:未使用品。メーカー名が印刷された化粧箱(保管箱)あり。
印刷された化粧箱から近代の量産品と判断できました。現在の中古市場に出回りすぎており、再販先を確保しにくいお品物です。この種類は写真で判別がつくため、実物を拝見するまでもなく「単品での買取は難しい」とお伝えできます。ただし、同じ箱の中に作家物が混ざっていることもあるため、他の器も併せて撮ってお送りいただくようご案内しました。
よくある質問(FAQ)
- 査定や写真相談はお金がかかりますか?断っても大丈夫ですか?
-
写真での事前相談、実物の査定、出張費用はすべて無料です。査定額にご納得いただけない場合にお断りいただいても、キャンセル料は発生しません。
- 出張買取でお金を受け取った後でも、キャンセル(クーリング・オフ)はできますか?
-
はい、可能です。出張買取(訪問購入)は特定商取引法の適用対象となり、ご契約日から8日以内であれば、無条件で契約の解除(クーリング・オフ)による品物の返品と返金が可能です。
- 作者のサインや裏に印が全くない器でも見てもらえますか?
-
印がなくても問題ありません。初期伊万里や古染付、李朝の陶磁器などは、裏に印がないことが通例です。印がないことだけで価値の有無を判断することはありませんので、お気軽にお問い合わせください。
- 引き出物や贈答品の未使用セットは、やはり値段がつきませんか。
-
事例でお伝えした通り、多くは高額になりません。ただし、洋食器のアンティーク・廃番シリーズや、箱に筆書きのある作家物が混ざっていることがあります。ご自身で判断せず、ご相談ください。
- 欠け・ヒビがある器や、揃っていないセットでも大丈夫ですか?
-
捨てずに残りをまとめてください。東洋陶磁器は欠けやニュウ(ヒビ)があっても作品によっては評価対象になります。セットの欠品も減額にはなりますが、廃番のブランド食器や単品需要のある器は、残りだけでも確認する価値があります。接着剤による自己補修などはせず、そのままご相談ください。
- かなり汚れていますが、洗ってから査定に出すべきですか?
-
古い器は査定前に洗浄しないでください。強い洗剤や金属たわしを使うと絵付けや金彩を傷めるおそれがあります。乾いた布で軽く埃を払う程度にとどめ、汚れが気になる場合もまずは写真でご相談ください。
処分業者を呼ぶ前に、まずは写真1枚だけ
まず1枚だけ、スマートフォンで撮って送ってください。器の全体が写っていれば構いません。
なお、写真だけで真贋や最終的な金額を確定することはできません。これは撮り方の問題ではなく、器の重さ、釉薬の質感、細かい使用痕など、実物を手に取らなければ分からない要素があるためです。写真は、その必要があるかどうかを見極めるための入口とお考えください。
▼ 詳しく見る場合の追加写真・撮影のコツ
- 撮影環境: 白い紙や布の上に置いてください。フラッシュは使わず(光が反射して状態が見えなくなります)、昼間の窓際など自然光での撮影が最適です。ピントが合っていれば多少暗くても構いません。
- 追加してほしい写真:
- 裏面・高台の写真
- 裏印・銘・落款の接写
- 欠け、ニュウ、補修箇所があればその部分
- 箱がある場合は、箱の蓋表・蓋裏・側面


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