マイセンの有名デザイナー一覧|原型師・絵付師と代表作の価値

マイセンの有名デザイナー

食器棚の奥から出てきたマイセンの器。裏返すと、青い「交差した双剣」のマークが手描きされている——

このマークは、マイセンで焼かれた品であることを示す窯印です。ただ、双剣は歴史上もっとも模倣されてきた印でもあり、これ一つで真作と決まるわけではありません。そして仮に真作だったとしても、価値の分かれ目はさらにその先にあります。

マイセンは18世紀前半から、立体造形を担う原型師と、絵付けを担う絵付師が分業して制作にあたってきました。作品の評価は、どの時代に、どちらの職能の誰が関わったのかをたどることで見えてきます。

長谷川雅人

たとえば、同じケンドラーの型から生まれたフィギュリンでも、18世紀に成形されたものと、マイセン自身が後年に同じ型から起こした品とでは、評価額に10倍以上の開きが出ることも珍しくありません。どちらも本物のマイセンです。それでも、価値は別物になります。

この記事では、ヘロルトやケンドラーといった18世紀の巨匠から、現代のハインツ・ヴェルナー、ザビーネ・ヴァクスまで、時代ごとの主要なデザイナー(原型師・絵付師)と代表作、価格の目安を一覧にまとめました。あわせて、底面の型番や窯印から「いつ、誰の意匠か」を絞り込む手順も解説します。

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目次

マイセンの価値は「原型・絵付け・制作年代」の組み合わせで変わる

マイセン磁器の査定において、底面に描かれた青い「交差した双剣」マークは確認すべき重要な手がかりです。しかし、このマークだけで真贋や制作年代、最終的な査定額までを判断することはできません。

市場での評価を正しく見極めるためには、その作品がどの原型師・造形家の意匠に基づくものか、そしてどの時代・様式の絵付けが施されているかという、原型と絵付けの二つの要素を切り分けて確認する必要があります。

型を起こす原型師と、色を載せる絵付師。1720年代にはこの二つの職能の分業化が進んでおり、絵付けを伴う作品であれば、一つの品は必ず両者の手を経て仕上がります。伝統的なマイセンの評価は、この器形(フォルム)と装飾(デコレーション)の組み合わせの妙を抜きにして語ることはできません。

マイセンでは、18世紀の巨匠が遺した原型が「型のアーカイブ」に保管されており、19世紀の歴史主義の時代から現代に至るまで、同じ型を用いた再生産が繰り返されてきました。

型が作られて間もない時期に成形された初期成形品と、後世に同じ型を用いて作られた後年の再生産品。この両者間で、評価に10倍以上の開きが出ることは珍しくありません。19世紀以降の再生産品も当時の職人による高度な手仕事であり、品質そのものが劣るわけではありません。違うのは、希少性です。意匠の帰属、絵付けの様式、そして製造された時代。これらを総合的に確認することで、作品の市場での位置づけや査定の目安をより適切に判断できます。

【早見表】時代別・マイセンの主要デザイナーと価値の目安

マイセンの歴史の中で、国際的なオークション市場および国内市場において高く評価される主要な原型師・絵付師・器形デザイナーを一覧にまとめました。お手元の品物がどの系譜に属するのか、また査定の際にどのようなポイントが確認されるのかの指標として参照してください。

※表中の参考価格帯は、記事末尾に記載した公開オークション等の実績に基づきます。

時代・様式デザイナー(原語・生没年)職能代表的な意匠・作品査定で確認されるポイント参考価格帯(円)
18世紀前半
(バロック・ロココ)
ヨハン・グレゴリウス・ヘロルト
(J. G. Höroldt, 1696–1775)
絵付師シノワズリ(中国趣味)、初期港湾風景図1720〜30年代の初期上絵付けか後世の模倣様式か、金彩(リフティング)の摩耗状態約30万〜300万円超
※絵付けの密度により変動
18世紀前半
(バロック)
ヨハン・ゴットロープ・キルヒナー
(J. G. Kirchner, 1706–没年不詳)
原型師初期大型動物彫刻、聖人像
(マイセン在任:1727–1733年頃)
アウグスト強王のための日本宮殿用モデルか否か、大型磁器特有の焼成ひび・後年の補修痕約50万〜400万円超
18世紀前半
(バロック・ロココ)
ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー
(J. J. Kaendler, 1706–1775)
原型師『スワン・サービス』(エーバーラインらとの協働)、『猿の楽隊』、スノーボール18世紀当時の成形品か後世の再生産品か、底面の型番刻印、立体部(指先・楽器・花弁)の欠損や後補彩色の有無約90万〜220万円(皿)
約200万〜数千万円(人形)
18世紀後半
(新古典主義)
ミシェル・ヴィクトール・アシエ
(M-V. Acier, 1736–1799)
原型師『デヴィーゼンキント(格言の子供たち)』、『四季の寓意』ペア・セットの揃い、衣装のレース装飾の細かな破れや指先の欠損、後年リペアの有無約15万〜45万円
19世紀
(歴史主義)
エルンスト・アウグスト・ロイテリッツ
(E. A. Leuteritz, 1818–1893)
原型師『Bフォーム』、『Xフォーム』重厚な「グランツゴールド(光沢金)」の摩耗や曇り、繊細な浮き彫り(エンボス)の割れ、セットの完全性約5万〜15万円
19世紀後半
(自然主義)
ユリウス・エドゥアルト・ブラウンスドルフ
(J. E. Braunsdorf, 1841–1922)
絵付師自然主義バラ図(ブラウンスドルフの薔薇)独自の陰影・ぼかし技法の精度、花絵自体の傷、器種(花瓶か大皿か)と金彩の状態約20万〜60万円
20世紀初頭
(ユーゲントシュティール)
エーリッヒ・ヘーゼル
(E. Hösel, 1869–1953)
原型師
(造形部門長)
近代造形・動物フィギュリンの刷新ユーゲントシュティール期特有の淡い彩色(釉下彩)の発色状態、モデル固有の希少性約10万円〜
※作品による個別査定
20世紀初頭
(ユーゲントシュティール)
コンラート・ヘンチェル
(K. Hentschel, 1872–1907)
原型師『ヘンチェルの子供たち』シリーズ底面のU番台の型番、子供の手足や帽子の縁・髪の欠け、白磁版か彩色版かによる需要差約12万〜35万円
1920〜30年代
(アール・デコ)
パウル・ショイリッヒ
(P. Scheurich, 1883–1945)
原型師バレエ・リュス『カルナヴァル』、『扇を持つ貴婦人』台座裏の署名(サイン)の有無、ショイリッヒ特有の衣服のシャープなエッジの欠け、白磁か彩色か約80万〜150万円
1920〜30年代
(アール・デコ)
マックス・エッサー
(M. Esser, 1885–1945)
原型師ベトガー炻器(せっき)動物彫刻、『ライネケ・フックス』ベトガー炻器特有の表面の艶と擦れ傷の有無、動物の角・耳・尾など突起部の欠損約30万〜80万円
1920〜30年代
(アール・デコ)
パウル・ベルナー
(P. Börner, 1888–1970)
原型師マイセン大聖堂の磁器製カリヨン(1929年/世界初の磁器製組み鐘)に関与、各種メダル
※ファイファー期に活躍
記念メダルは発行年と描かれた主題、カリヨン関連品は当時の付属記録や共箱の有無約5万円〜
※作品による個別査定
戦後〜現代
(現代マイセン)
ハインツ・ヴェルナー
(H. Werner, 1928–2019)
絵付師『アラビアンナイト』、『サマーナイトドリーム』シリーズの希少性(絵付けの難易度)、カップ・プレートなどの器種、日常的な使用感、共箱・証明書の有無約8万〜18万円
戦後〜現代
(現代マイセン)
ルードヴィッヒ・ツェプナー
(L. Zepner, 1931–2010)
原型師『グローサー・アウスシュニット』、『ホワイトレリーフ』フォーム(器形)の歪みやチップの有無、組み合わされた絵付け(ヴェルナー作品等)の種類、ディナーセット等の揃い約5万〜30万円
※絵付けの種類により変動
戦後〜現代
(現代マイセン)
ペーター・シュトラング
(P. Strang, 1936–2022)
原型師手びねり技法を生かした道化師・ピエロのフィギュリン限定品や一点物(ウニカート)か否か、手びねり部分の破損、制作年代とサインの有無約5万〜40万円
現代
(現代マイセン)
ザビーネ・ヴァクス
(S. Wachs, 1956年生)
器形デザイン『波の戯れ』フォーム家庭内での使用感(小傷や水垢)、スクラッチ(二級品マーク)の有無、客数(5客セット等)の揃い約2万〜5万円

※初期成形品と後年の再生産品では、同一モデルであっても骨董的希少価値が異なるため、査定額の評価基準が変わります。

主な出典・オークション実績

本記事のデータおよび参考価格帯は、以下の国際的オークションハウスの公開落札アーカイブ、および国内の専門市場流通データを参照しています。

  • Sotheby’s(サザビーズ) 落札データ(例:2019年ロンドン開催 From Meissen to Paris: The Röbbig Collection 等)
  • Christie’s(クリスティーズ) ヨーロッパ磁器・装飾美術部門 落札実績
  • Bonhams(ボナムズ) 骨董磁器オークション記録
  • Staatliche Porzellan-Manufaktur Meissen GmbH(国立マイセン磁器製作所) 公式アーカイブおよびリミテッド作品カタログ

マイセンのデザイナーを特定する3つの手がかりと注意すべき落とし穴

お手元にあるマイセンの作品が、いつ頃、どの原型や意匠に基づいて作られたのか。その年代や作者を絞り込む作業は、底面の状態を観察することから始まります。マイセンでは長い歴史の中で窯印、型番、手書き記号などを用いた製造管理が行われており、底面のマークや数字は確認の出発点になります。

ただし、底面の刻印だけで真贋や正確な価値まで結論が出るケースは多くありません。型番、絵付師番号、双剣マークという3つの手がかりから、それぞれの刻印が示す範囲と刻印だけでは決められない点を順に確認し、とくに判断を誤りやすい後年再生産(リバイバル)の仕組みまでを、底面を見る順序に沿って説明します。

底面の記号からオリジナル原型を辿る

お手元のフィギュリン(人形)や器類の底面(高台付近や無釉部分)を見ると、窯印とは別に見られる掻き彫りやスタンプ状の記号には、作品モデルを示す型番のほか、成形・製造管理に関わるインプレスが含まれます。これらは職人が手作業で刻むため、スタンプ状の凹凸が見つかることもあります。

作品の三次元的な形状(モデル)そのものを識別するためのコードが型番(フォルムナンバー)です。マイセンでは、器形やフィギュリンなどのモデルを管理するため、作品ごとに数字やアルファベットを含む番号が付与されてきました。

たとえば、18世紀後半の新古典主義時代にミシェル・ヴィクトール・アシエが手がけた『デヴィーゼンキント(格言の子供たち)』シリーズや、20世紀初頭にコンラート・ヘンチェルが手がけた『ヘンチェルの子供たち』など、代表的なフィギュリンにはアルファベットと数字を組み合わせたモデル番号が確認できるものがあります。

この型番を専門資料や作品カタログと照合することで、作品のオリジナルの原型や、関わった原型師の候補を絞り込むことができます。

ただし、番号だけで制作年代まで判断することはできません。アルファベットと数字による体系的なモデル管理が整備されたのは18世紀後半(1763年頃)以降であり、それ以前のケンドラー期などの古い作品には、後年になって管理用の型番が追記されたものが混在するためです。

現物を見る際は、数字の一部が釉薬で埋まり、「1」と「7」、「U」と「V」の判読が難しいことも少なくありません。型番の読み取りは刻印だけに頼らず、人物の姿勢や衣装、台座の装飾といった実際の造形との突き合わせが前提です。

絵付師番号と装飾番号(デコール)の違い

形を決定する型番に対し、二次元の絵付けや装飾の工程を示す記号が存在します。それが「絵付師番号」や「装飾番号」です。通常、底面にある下絵付けの青い双剣マークの近くに、赤茶色や黒などのエナメル顔料、あるいは金彩で小さく入れられています。

実際には、この筆で入れられた数字だけを見て「作家のサイン」と考える方も少なくありません。しかし、多くは作家名ではなく、工房内での作業管理や職人の識別用の記号です。職人番号の記録は時代ごとに更新や再割り当てが行われており、一般に公開されているデータも限られているため、この番号から高名な絵付師の個人名を特定することは困難です。

一方、装飾番号が併記されている場合は、『ブルーオーキッド』や『インドの華』といった絵付けパターン(デコール名)の特定につながります。なお、『Bフォーム』のような名称は絵付けではなく器形・フォームを示す呼称です。装飾番号とは別の情報として確認します。

筆致や絵の具の色合いは、双剣マーク、胎土、釉薬、器形、絵付け技法とあわせて照らし合わせることで、絵付けが工房内で施されたものか、後年に加えられた彩色(後補彩)が混じっていないかを検討する材料になります。

サインがないから量産品、という判断はできません。ハインツ・ヴェルナーなどの現代マイセンの巨匠が手がけた一点物(ウニカート)や特別限定品には芸術家本人の自筆サインが入る場合がありますが、通常のシリーズ作品にサインが入らないことは一般的であり、サインの有無だけで価値が決まるわけではありません。

双剣マークの形状による制作年代の絞り込み

ここで見るのは、コバルトで描かれた剣そのものの形です。マイセンの窯印である「交差した双剣」マークは常に一定ではなく、時代背景や製作所の監督者の交替に応じて、その筆致や付加記号を変化させてきました。

代表的な例として、1774年から1814年の「マルコリーニ期」には、双剣の柄の間に小さな「星(アスタリスク)」が描き加えられています。また、1924年から1934年の「ファイファー期」には、双剣の刃の間に明瞭な「点(ドット)」が打たれているのが特徴です。18世紀の「点期(アカデミー期、1763–1774年)」にも点が加えられますが、こちらは柄の間に位置するため、点が打たれた場所によって判別が可能です。

双剣の刃の間に点が加えられた窯印が、器形、胎土、釉薬、他の底面記号とも矛盾なく読み取れれば、1924年から1934年頃の制作を判断する重要な材料になります。この時期には、パウル・ショイリッヒらがアール・デコの新しい造形をマイセンへもたらしました。

ただし、同時期に制作された作品であっても、原型まで同時代のデザイナーによるとは限りません。過去の名作をもとにした再生産も多いため、必ず型番や器形の照合と組み合わせる必要があります。

【落とし穴】特定を阻む「後年再生産(型のリバイバル)」の仕組み

型番、絵付師番号、双剣マークを確認しても、すぐに答えが出ないことがあります。その大きな理由が、マイセンで長く続いてきた後年再生産(リバイバル)の存在です。

もっとも注意したいのは、型番が示す原型の時代と、実際にその個体が制作された年代が一致しないことです。マイセンでは18世紀の名作の原型やモデルは工房の資産として受け継がれ、必要に応じて型を再整備・再作製しながら、後世にも繰り返し再制作されてきました。

お手元のフィギュリンの底面に18世紀の型番が刻まれていたとしても、それが当時の存命期に作られた「初期成形品」であるとは限りません。19世紀後半や20世紀に、古い型を用いて制作された再生産品である可能性も決して珍しくありません。

19世紀以降の再生産品も、当時の職人が手作業で成形と絵付けを行った優れた磁器です。それでも18世紀の初期成形品と評価が分かれるのは、希少性に加え、歴史的背景、胎土や釉薬の質、造形の繊細さ、現存数が異なるためです。当店への査定相談でも、ケンドラー原型とみられるフィギュリンのうち、18世紀製と判断できる個体はごく限られます。この差が、そのまま評価額の差につながります。

底面の刻印や番号を踏まえた上で、それらが胎土の質感、釉薬の厚み、彩色の時代性と矛盾なく一致しているかを、多角的な視点から検証することが必要です。

底面を確認するときの3つのポイント

査定や問い合わせの前に、ご自宅で底面をチェック・撮影する際は以下の点にご注意ください。

  1. 光を斜めから当てる:掻き彫りの型番は浅く釉薬で埋まりやすいため、スマートフォンのライトなどを斜めから当てると陰影が強調され、刻印の輪郭を確認しやすくなります。
  2. 絶対に強く擦ったり薬剤で洗ったりしない:手書きの記号や上絵・金彩は、研磨剤入りの洗剤、強い摩擦、長時間の浸け置き、食洗機の使用によって傷むおそれがあります。査定前に無理に洗浄せず、柔らかい乾いた布で軽く埃を払う程度にとどめるのが安全です。
  3. 撮影は「全体」と「マーク周辺の接写」を用意する:写真査定をご利用の際は、作品全体の角度を変えた写真が必要です。さらに、底面の双剣マークや刻印がはっきり写るようにピンボケを防いで接写したカットがあると、判定の精度が大きく上がります。

【マイセンの写真査定のご案内】

型番やマークが釉薬で潰れていて判読できない場合や、後年の再生産品かどうかを確認したい場合は、マイセンの査定・買取専門ページから写真査定をご利用ください。底面、全体、傷や補修が疑われる箇所の写真をもとに、原型・制作時期・状態を個別に確認いたします。

マイセン磁器における歴代著名デザイナーの系譜と査定の評価要因

マイセン(Meissen)の査定において、著名な原型師や絵付師の系譜を特定することは重要な確認事項ですが、作家名だけで最終的な評価額が決まるわけではありません。査定の現場では、デザイナーの知名度を踏まえた上で、4つの要因を突き合わせて評価額を決定します。

制作年代・作品の同定と真贋確認

査定において慎重な確認を要するのが「同じ原型に基づく作品であっても、いつ頃作られた個体か」という点です。マイセンでは、過去のモデルや造形資料が工房の資産として受け継がれ、後年に型を再整備・再製作して復刻や再制作が行われてきました。そのため、同じ原型に基づく作品でも、制作年代によって評価が分かれます。

18世紀に近い時期の作品は、歴史的価値や現存数の少なさが評価につながる場合があります。一方、後年の再制作であっても、大型作品、人気モデル、保存状態の良い個体、限定的に製作された作品などは高く評価されることがあります。実際の査定額は、制作年代だけでなく、作品の種類、状態、希少性、市場需要を総合して決まります。

同定の判断材料は、素地や釉薬の質感、成形の特徴、彩色、窯印(交差双剣マーク)、型番号の刻印書式です。これらを精査し、資料や同時代の作例と照合します。いずれか一つの特徴だけで即断せず、他工房による模倣品ではないか、すべての特徴に時代的整合性があるかを慎重に判断します。

品目・サイズ・造形の複雑さが査定額に与える影響

プレートやカップなどの平皿・実用食器は、同じ意匠であっても量産数が多く、中古市場での流通量も安定しています。一方、大型フィギュリンや複数体を組み上げたセンターピースは、成形から乾燥、焼成まで高度な技術を要します。指先、花枝、楽器などの突出部も多いため、欠損や修復のない個体は、同じモデルの傷や補修がある個体と比べて評価されやすい傾向があります。

実務においては、作品の大きさや構成体数、突出部の状態を確認します。事例2のように、10cm前後の小品であっても、破損リスクの高い持物や指先をはじめとする突出部がすべて無傷で残っているかどうかは、評価を左右する重要な条件となります。

コンディションと修復歴の有無

衝撃に弱く欠けが生じやすい磁器の特性上、保存状態の確認は必須です。持物の角や人物指先の欠け(チップ)、作品の楽器や花の先端の欠損、作品に見られる磨き金彩の擦れや曇りは、原則として減額対象となります。

過去に精密な補彩や接着が施されていると、肉眼では美しく見えても紫外線照射で反応が出ることがあります。ただし、紫外線反応だけで修復を断定せず、拡大観察や触診、彩色・釉薬の状態確認をあわせ、修復の有無や範囲を総合的に判断します。

付属品の揃いとシリーズ別の市場需要

テーブルウェアでは、シリーズの人気、流通量、制作年代、セット内容、欠品の有無が評価に影響します。単品よりもディナーセットやペア(対)として一式が揃っているかどうかが確認のポイントです。限定品や一点物、高額シリーズでは、マイセン磁器製作所が発行した証明書や純正箱が揃っていることで、コレクション性が評価される場合があります。

マイセン査定事例

過去に当店で実際に取り扱った査定事例をご紹介します。意匠、制作年代、そして保存状態によって評価がどのように変化するのか、具体例としてご確認ください。

※掲載事例の詳細データは、お客様のプライバシー保護に配慮した上で当店査定台帳より抽出し、一部記載を整理しています。

アラビアンナイト コーヒーサービスセット
参考事例 1

ハインツ・ヴェルナー意匠『アラビアンナイト』コーヒーサービスセット

参考査定価格 520,000

評価ポイント

現代マイセンを代表する高級ラインです。ルードヴィッヒ・ツェプナーが1970年代前半に設計した器形(グローサー・アウスシュニット)の、最初期にあたる生産期の個体であることを高く評価しました。セットとしての欠品がなく、VEB期の証明書と純正箱が揃っているコレクション価値、および使用感のない保管状態を踏まえた満額査定となりました。

ヘンチェルの子供たち / ミルクを飲む子供
参考事例 2

コンラート・ヘンチェル原型『ヘンチェルの子供たち』ミルクを飲む子供

参考査定価格 100,000

評価ポイント

モデルの成立年と底面のボタン剣(1850〜1924年)の重なりから、1905〜1924年の間に制作されたアンティーク個体であると特定できます。今回は裾裏に幅約8mmの後補彩(修復痕)があったため減額評価となりましたが、正面からは見えない位置で範囲も限定的だったことから減額幅を2割にとどめました。

Bフォーム 金彩大皿
参考事例 3

E・A・ロイテリッツ意匠『Bフォーム』金彩大皿

参考査定価格 10,000(買取見送り)

評価ポイント

一級品の完品であれば10万〜の金額帯の期待できる器形ですが、双剣マークに研磨線がある二級品であることに加え、装飾の中心である金彩が剥離していました。金彩を再施工するには再施金・再焼成・研磨が必要で、その費用が再販価格を上回る修復前提の評価とならざるを得ず、お客様のご希望額と乖離があったためご返却となりました。

査定士より

長谷川雅人

古いフィギュリンや歴史主義様式の食器は、窯印だけでは制作年代を判断できない場合があります。型番号、器形、彩色、釉薬、保存状態、修復歴を確認し、資料や比較作例と照合することが重要です。

マイセンのデザイナーと価値に関するよくある質問

マイセンの売却・査定を検討される際によく確認される質問をまとめました。ご自宅にある作品の状態や仕様と照らし合わせてご確認ください。

作家のサイン(ペインターサイン)が入っていない作品でも、誰のデザインか特定できますか?

型番号や装飾番号が確認できる場合は、候補を絞り込めることがあります。

通常の量産シリーズでは、原型師やデザイナー本人の自筆サインが入らないことが一般的です。底面の手書き記号は、実作業を担当した絵付師の識別記号であり、デザイナーの署名ではありません。ペインターサインとデザイナーの署名を混同すると、作品の帰属や製作背景を誤解する原因になります。手がかりになるのは、掻き彫りの型番(フォルムナンバー)と、絵付けパターンを示す装飾番号です。当店ではこれらを製品資料、作品カタログ、比較作例などと照合し、原型や装飾の候補、制作年代の目安を確認します。

ヴェルナーの『アラビアンナイト』などは、本人が1点ずつ絵付けしたのですか?

多くは本人ではなく、工房の職人が絵付けを担当しています。

現代マイセンでは、アーティストが原画や基本デザインを手がけ、それに沿って工房の絵付師が装飾を施す分業で製作されるシリーズが多くあります。本人が直接絵付けや署名を行った一点物(ウニカート)は個別評価となり、通常のシリーズ品とは別の価格帯になりますが、工房の職人による絵付けであっても正規のシリーズ作品として査定の対象になります。

同じ『ヘンチェルの子供たち』でも価格に開きが出るのはなぜですか?

同じ原型でも、制作年代と保存状態が異なるためです。

マイセンは過去の型を長期間にわたって再生産しているため、18世紀や20世紀初頭に制作された個体と、後年の再生産品とでは市場の評価が大きく変わります。また、修復歴がある場合は減額要因となりますが、修復箇所、範囲、作品の希少性、彩色や造形の保存状態によって評価は異なります。修復歴があっても、修復箇所が目立たず作品全体の保存状態が良好だったため個別に評価した事例もあります(→ 事例2を参照)。ご自身で接着や着色を行うと、状態確認や後の修復が難しくなる場合があるため、現状のままでご相談ください。

箱や証明書がない本体のみの状態ですが、価値に響きますか?

作品の種類によって影響が異なります。

日常使いのテーブルウェアでは、箱がなくても、本体の状態やセットの揃い方を中心に評価することが一般的です。一方、限定品、一点物、高額シリーズ(→ 事例1のような作品)では、純正箱や製作所発行の証明書が揃っていることで、コレクション性や再販時の需要が評価される場合があります。

これはマイセンの偽物でしょうか?真贋も見てもらえますか?

はい、真贋の確認も含めて査定いたします。

19世紀には、マイセンの様式や宮廷関連の標章を参照した作品を制作したドレスデン周辺の工房もありました。そのため、双剣マークやARマークだけで真贋を決めることはできません。査定の現場では、素地の見え方や質感、釉薬、成形、装飾技法、型番の書式などを照合し、時代的な矛盾がないかを確認します。

お手元のマイセンの制作年代と価値を知りたい方へ

これまで解説してきたように、マイセンの価値は底面の窯印の有無だけで決まるものではありません。

同じ原型の作品でも、いつの時代に製造された個体かによって評価が分かれます(詳しくは「制作年代・作品の同定と真贋確認」をご参照ください)。原型が制作された時期に近い個体と、後年に同じ原型を用いて製作された個体を見分けるには、窯印の様式や型番の書式を、素地や彩色の時代性と突き合わせる作業が必要です。

ご自宅で底面の状態をチェックされる際は、以下の点にご注意ください。

  • 無理に洗浄しない:底面の手書き記号のうち、金彩や上絵で書かれたものは釉薬の上に乗っているため、研磨剤入り洗剤やメラミンスポンジで擦ると簡単に消えてしまいます。一度消えると年代や装飾を確認する手がかりが失われるおそれがあるため、柔らかい布で埃を払う程度にとどめてください。
  • 必要な写真を揃える:当店の写真査定をご利用の際は、以下の写真をご用意いただくと確認がスムーズです。
    1. 作品全体(正面・背面・側面の3枚)
    2. 底面の窯印の接写(文字やマークが読める距離まで寄る)
    3. 型番の刻印部分(浅い数字は、斜めから光を当てると影が出て読みやすくなります)
    4. 傷や補修が疑われる箇所

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型番が釉薬で潰れていて読めない場合や、お持ちの作品の年代や装飾の候補を確認したい場合は、写真査定をご利用ください。
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この記事を書いた人

【経歴】
大学で歴史や哲学を専攻
美術品・骨董品・古美術の業界で20年

【実務】
・一般顧客からの買取(主に出張買取や店舗での買取)
・美術品時価評価書の作成
・業者オークションでの仕入
・ギャラリーでの販売
・小規模の買取店などに美術品の鑑定方法や査定方法の指導
・買取業者・整理業者に対するLINEを使ったリアルタイム査定

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